嘘と微熱と甘い罠
よく考えたら。
…いや、よく考えなくても。
相良はデレデレなんてしていない。
普通に返事をしただけだ。
仮にデレデレしていたとしても。
私がイライラする理由はない。
…ない、はず…なんだけど。
イライラするんだもん。
無性にイライラする。
レストルームでため息を吐く私。
鏡の向こうの私は。
眉間に深いシワを寄せ、目の奥に醜い感情が溢れてる。
私はこの感情を知らないわけじゃない。
知っているけど、認めたくない。
だって、これは…。
「…飲みすぎた、かな…」
いつもの私ならまだ飲める。
そんなのわかってる。
でも。
これ、はお酒のせいにでもしないと。
どうしていいのかわからなくなってしまう。
ブンブン、と軽く頭を振ると。
先に帰ることを誰かに伝えようとレストルームを出た。