嘘と微熱と甘い罠

普段ならカタカタと軽い音をたて、文字を打ち込んでいくキーボード。

だけど。

ここ最近動きが鈍い。





「…………………」





パソコンの調子が悪いわけじゃない。

それを操る私の調子が悪いんだ。





あれから1週間。

仕事でもプライベートでも、笠原さんには会っていない。

メールも電話もしていない。

元々頻繁に連絡を取っていなかったし。

笠原さんにしても、そんな大きな違和感には繋がってないはずだ。





鳴らないケータイに安堵しているなんて。

ちょっと前の私には考えもしなかったこと。

なのに。

今はケータイが私を呼び出す度にビクビクしている。





「…ハァ」





なかなか進まないパソコンの画面に向かってため息を吐いたとき。





「…大丈夫か?」





コトン、と。

柔らかな湯気がたつマグカップがデスクの端に置かれた。



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