嘘と微熱と甘い罠
顔をあげると。
もうひとつマグカップを持った相良が、椅子に座ろうとしているところだった。
「あ、りがと…」
「おう」
マグカップを自身のデスクに置いた相良は。
フゥ、と小さくため息を吐くと、パソコンに顔を向けた。
笠原さん同様。
相良とは必要以上に絡んでない。
お互いに案件を抱えていて忙しいわけじゃないから。
少し前だったら毎日でも飲みに行ってたかもしれない。
でも、今は。
何となく気まずくて。
こうやって仕事の合間に一言二言話すぐらい。
それは。
私が自分の中の見たくないものに蓋をしてしまっているからかもしれない。
温かそうにユラユラと揺れる白い湯気を見ていると。
キリキリしてる心が。
少しずつ丸く撫でられていくような気がした。