嘘と微熱と甘い罠

「お疲れさまでしたー」

「お先に失礼しまーす」





壁に掛かっている時計も、パソコンのディスプレイも。

デスクの隅に置かれたケータイも。

時間を表示するもの全てが、終業の時刻を知らせた。

残業していく社員は時間なんて気にせず、パソコンと向かい合ったまま。

定時で上がれる社員は、いそいそと荷物をまとめ帰り支度を始めてる。

隣で仕事をしている相良も例外ではなく。

パソコンの電源を落とし、帰り支度を始めてる。





「天沢、飯でもどう?」





今日は残業しないらしい相良に。

私は、ご飯に誘われていた。





「あ…えっと…」





歯切れの悪い返事が唇から漏れる。

今日の私。

予定もないし、仕事も残業をする必要はない。

だから悩む必要は…ないわけじゃない。

だって、気まずい。

相良には直接関係ないけど、気まずい。

だって相良は。

相良は…。



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