嘘と微熱と甘い罠
私は、さっきの課長の言葉を思い出して。
隣の誰もいない席を見た。
―「サブは相良で。期待してるぞ」―
わざとらしい笑みを浮かべた課長は。
そう言うだけ言って、自分は定時でそそくさと帰ってしまった。
…今日は結婚記念日なんだそうだ。
しかし。
よりによって、相良と組んで仕事とは…。
気心知れてるから仕事はやりやすい。
だけど。
なんで今?このタイミング?
パソコンを睨みつつも、ため息が出てしまう。
そのため息の原因は。
あの日以降も全く変わってない。
私の心の中は大荒れだというのに…。
「お疲れさん」
「あ…お疲れ…」
デスクを離れていた相良が戻ってきた。
…途端、ドクンと大きく揺れる心臓。
私は気付いてしまったんだ。
この隣のデスクの人間が気になって気になって仕方ないことに。