嘘と微熱と甘い罠
カタカタとキーボードを叩く音に混ざって聞こえてくるのは小さなため息と。
伸びをしてるのか、キシッと軋む椅子の音。
キーボードを叩く指を休めたいのか。
手を開いたり閉じたりしてる。
「相良くーん」
「はい?」
書類を手に誰かが相良のデスクに歩いてきた。
この声は…。
相良のことを“カッコイイ”って言ってる他部署の同僚だ。
「これ、確認してもらえる?」
「あー…っと…返却、朝イチで平気?」
「大丈夫ー。お願いしまーす」
なんか、イライラする。
無性にイライラする。
無意識に力を込めすぎて、手に持っていたペンがしなりかけた時。
同僚がさらに言葉を続けた。
「ねぇねぇ、相良くん。あのさぁ…」
あなたには何の罪もないけれど。
今、私は。
猛烈にイライラしています。
…わかってます。
これがただの八つ当たりだってことは…。