嘘と微熱と甘い罠

この部署にも何人か残業をしている人もいる。

話をしている人もいる。

それなのに。

カタカタとキーボードを叩く音と。

カチカチッというマウスをクリックする音だけが妙に響いているように感じた。





同僚がいなくなったからといって、相良と私が話を始めるわけじゃない。

相良も私も仕事中なのだ。

相良はパソコンと資料を見比べ何かを入力している。

それに対して私は…。





…ダメだ。

パソコンの画面を見ていても。

わけのわからないものの羅列にしか見えない。

頭の中じゃさっきの同僚の笑い声と。

それに応える相良の声がグルグルまわってる。

こんなんじゃ残業してたってはかどらないし、意味がない。

…ダメだ、冷たいものでも飲んで頭冷やそ。





はぁぁぁぁぁ、と。

苦笑混じりのため息をひとつ吐き。

カフェスペースに行こうと立ち上がろうとした時。

デスクに置きっぱなしになっていたケータイがブルブルと震えだした。




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