嘘と微熱と甘い罠

―夢を見た。

私はドラマか何かの映像を観ているかのように。

それを観ていた。





いつものカフェスペースいるのは…私と、笠原さん。

そこにはすごく楽しそうに笑っている私がいる。

次の瞬間。

会話が途切れ、笠原さんと視線がぶつかった。

…周りには誰も、いない。





“あ、キスされるかも”




観ていた私が感じた、夢の中の私のドキドキドキと高鳴る胸の音。





―…天沢…。





ちょっと低めの誘うような声。

肩に置かれた手。

近づいてくる笠原さんの顔。

そして。

重なる笠原さんと私の唇。





途端、観ていた私の胸の奥が掴まれたように痛くなる。





いやだ、いやだ、いやだ…っ。

違う、笠原さんじゃないっ…!!





ブンブンブン、と頭を振ったけれど。

夢の中の2人は唇を重ねあったまま。

笠原さんの手が背中にまわされたのがわかった。





その時気が付いた。

ドキドキドキと高鳴るの音も、背中にまわされた手の感覚も感じたのに。

唇の感覚がわからないのは。

なんでだろう、と…。




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