嘘と微熱と甘い罠
昨夜あんなに優しかったから。
あんなに…甘かったから。
ちょっとした気の迷い。
相良の言うとおり、ここは職場だ。
呆れたように言われた相良の言葉は痛いけど。
相良は間違ったことは言ってない。
私は近すぎる相良の顔から目を逸らしたまま言葉を発した。
「…ごめん」
「なーんてな」
………え?
さっきまでの冷たい声とは正反対。
おどけたような相良の声が耳を通った。
慌てて逸らした顔を相良に向けると。
そこには不機嫌な相良じゃなくて。
ちょっと意地悪そうに口元を持ち上げ、薄ら笑いを浮かべた相良がいた。
な、んで…どういうこと…?
私、怒られてたんだよね?
なんで薄ら笑いなんてしてるの…?
私は何がなんだかわからない。
片手を窓ガラスについたままの相良は。
反対の手で私の唇をなぞると。
さっきより私との距離を縮めるように、耳元で囁いた。
「…そんな物欲しそうな顔してたら…喰っちゃいますけど?」