嘘と微熱と甘い罠
…あの時。
なにが起こったのか理解できなくて。
ほんの10秒ほど前までの、あの甘ったるい空気は。
まるで最初から存在していなかったかのように。
相良は仕事中の顔をしてパソコンに向かっていた。
「さ…相良?」
私の呼びかけに気づいてないのか。
相良はパソコンの画面を見つめたまま。
…もしもーし、相良くん?
私は、どうすればいいんですか?
乱れた服はそのまま。
この状況を理解しきれず、声をかけた私に。
パソコンに向かっていた相良がクルリ、と振り返った。
「…天沢」
「え?」
「いい案、浮かんだ。いけるぞ、これ」
私は忘れないだろう。
あの時の相良の清々しくスッキリした顔と。
「…ちょ…んっ、相良っ!?」
「続きは…後で、な…?」
「なっ…!!」
グイッと私の後頭部をひき、そのまま頬に唇を落とした後の。
あの意味ありげなニヤついた顔を。