嘘と微熱と甘い罠
数人の声に混じったその声は、笠原さんの声。
笑いながら賑やかに、だんだんと大きくなる。
まさか、こっちに来ないよね?
こんなところで絡まれたら。
私、逃げようがない。
窓の外に体を向けると。
気付かれないように気配を消す努力をした。
…無駄な努力だとはわかっているけれど。
自分の気持ちが離れてしまったからか。
それとも。
相良に抱かれた後ろめたさか。
もう戻れないのはわかってる…いや。
戻るつもりはないんだから、はっきりさせなきゃいけない。
だけど、こんないきなりなんて。
心の準備ってもんがあるで…。
「お疲れさん」
…私の願いむなしく。
カフェスペースの手前で分散された声は。
笠原さんだけ私の方に向かってきた。
「お、疲れさま…です…」
「忙しいみたいだな」
「あ、はい…」
笠原さんは私と同じように自販機でコーヒーを買うと。
私の隣に並んだ。