嘘と微熱と甘い罠

緊張してる。

心臓の動きが増していくのがわかる。

でもそれは、相手を想うドキドキじゃない。

いたずらをした後の子どものドキドキと近いかもしれない。





「相良と組んでの企画だって?」

「あ、はい…」

「お前らが組むと面白そうな案だしてくるから、期待されてるだろ?」

「いえ、そんなことは…」





…言えない、言えないよ。

どうやって切り出せばいいかわからない。

笠原さんと別れた後、こんな風に仕事の話もできなくなったら?

お互いに大人だし、…笠原さんだし。

仕事とプライベートは割り切れるはず。

だけど。

私が別れを切り出された方だったら。

普通にしていられる自信はない。

でも…。





“だけど”と“でも”の繰り返し。

言おうとすると、笠原さんとの時間が頭を過る。

言わなければ笠原さんと私はこのままだ。

…いや、このままでなんていられない。

私のなかにはもう。

相良が住み着いてしまっているのだから。





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