嘘と微熱と甘い罠
「なぁ、天沢」
ふいにコーヒーを飲んでいた笠原さんが腰を屈め。
俯いている私の耳元に顔を寄せた。
「…今夜空いてる?」
「え…」
「…19時。いつものところ」
コソッと耳元で囁かれた言葉は。
少し前なら残業よりも約束よりも。
何よりも最優先にしてた言葉。
だけどそれは私が自覚する前…笠原さんのことしか考えてなかった時の話。
今は…。
「あの…笠原さん…っ。お話しがある、んです…け…ど…っ!?」
覚悟を決めた。
私の気持ちが笠原さんに向いていないことをはっきりさせなきゃ。
笠原さんにも、相良にも。
そして自分自身にも。
誤魔化さないで話さなきゃ…。
そう決めたのに。
私の決心は脆くも崩れ去った。
正しくは。
決心どころじゃなくなってしまった。