嘘と微熱と甘い罠
なに…?
なんで?なんであんなものが…?
バクバクと動きを増していく心臓の動きにつられるように。
体が震えそうになる。
そんな私のことなんて気付かない笠原さんは。
フッと口元に笑みを乗せ、首に手を充てると。
そのまま首をコキコキと左右に動かした。
「…話って?」
「…あ、えっと…」
「まぁ、後でいいか。悪い話なら聞かないけど」
なんてな。
笠原さんは笑いながら言葉尻にそうつける。
そして、手にしていたコーヒーの空き缶をゴミ箱に捨てると。
「じゃあ、また後で」と。
微かに聞こえるくらいの小さな声で呟いて、カフェスペースを後にした。
遠さがる足音を聞きながら、私は座り込んでしまった。
なんで?
どうして?
考えたって真実は目に映っていた。
―私の耳元に顔を寄せた笠原さんの襟元。
ちょうどワイシャツの襟に隠れる部分には、赤い痕。
それは“所有印”。
俗にいう“キスマーク”が存在していた。