嘘と微熱と甘い罠

“あれ”は私がつけたものじゃない。

相良とのこともあって私が避けていた、というのもあるけれど。

会議室で触れられて以来、笠原さんとは会っていない。

…それなのになんで?

あれはキスマークじゃなくてどこかにぶつけた痣?

なんて、思えるほど私もバカじゃない。





笠原さん…それは浮気の跡、ですか…?





さっきまで笠原さんとの関係を終わらせようとしていたのに。

自分だって相良と…。

それなのに、今の私。

ズキズキズキズキと…胸が痛い。

痛い、痛い。





「……っ…」





裏切った、という言い方をするなら私も同じ。

だけど。





「痛いよ…っ…」





バクバクと動く心臓は、ズキズキと痛い。

別れるつもりでいたんだから。

そう割りきれない私は。

誰もいないカフェスペースで、ひとり膝を抱えたまま。

その場に踞っていた。






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