嘘と微熱と甘い罠
「じゃ、頑張れよ」
「はい、頑張ります。中村さんも…」
「おー」
企画部に戻ると。
私に背中を向けた中村さんは。
ヒラヒラと手を降り、自分のデスクに戻っていった。
さて、私も戻らなきゃ…。
「遅ぇ」
「あ…」
資料を広げるだけ広げて。
相良と私が占拠しているミーティングルームの扉の前に。
相良が腕組をし、寄りかかりながら立っていた。
「何してた?」
「…ごめん」
冷たく頭の上を通りすぎる相良の声に。
私は謝るしかなくて…俯いてしまった。
笠原さんが浮気してるかも、とか。
笠原さんの首元にキスマークがあった、とか。
それで落ちて凹んでた、なんて。
…言えない。
言えるわけない。
中村さんと話したことで少し浮いてきてた心が。
相良を見たらまた沈んでいく。
…あぁ、もう。
私、どうしたいんだろう…。