嘘と微熱と甘い罠

それから。

カチャン、と無機質な音が耳を通ったのと。

フワリ、と甘い香りに包まれたのと。

私の視界が暗くなったのが、相良に抱きしめられているからだと気付いたのは。

ほんの数秒後のことだった。





「ちょ…っ、さ、相良っ!?」





なんで!?

なんで抱きしめられてるの!?私。

そんな雰囲気じゃなかった。

寧ろ相良は不機嫌だったはずなのに。

なんでこんな…。





「何があった?」

「や、別に何も…」

「これが何もなかったって顔かよ」

「…っ!?」





私を抱きしめる腕を緩めると。

相良は指先で私の頬をスルリ、と撫でた。

そして。

その指先は顎にかけられ、私の顔を持ち上げた。





「お前がそんな顔するのは笠原さん絡みのことなんだよ」





視線が絡まる。

それは心の中を見透かすかのように真っ直ぐで。

胸の奥が細い紐で絞められてるように。

キュッ、と痛くなった。




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