嘘と微熱と甘い罠
相良のことも、笠原さんのことも。
“真実”はどこにあるんだろう。
どんな気持ちで、どういうつもりでいたのか。
何を思って私に触れたのか。
知りたいけど、知りたくない。
そこに気持ちも何にもなくて“私”を全否定されてしまったら。
私は自分の存在理由さえわからなくなってしまいそう。
でも、相良のやったこと全部が嘘だなんて思えない。
…思いたくない。
だって私がキスしようって言ったとき。
相良は私が傷付くからと言ってしなかった。
それは…少しでも私に対して罪悪感が存在したから。
そう思いたかった。
今は2人の姿どころか声すら耳に入れたいとは思わない。
むしろ避けられるなら避けたいくらい。
でも、個人的な感情で動けるような年齢ではない。
感情も事情も押し殺さなきゃならない。
仕事上でのつきあいでは特にそれが必要になってくる。
「…戻らなきゃ」
洗面所の鏡に写っているのは。
二重が消えた真っ赤な目に、精一杯の作り笑いを浮かべた私だった。