嘘と微熱と甘い罠

相良のことも、笠原さんのことも。

“真実”はどこにあるんだろう。

どんな気持ちで、どういうつもりでいたのか。

何を思って私に触れたのか。

知りたいけど、知りたくない。

そこに気持ちも何にもなくて“私”を全否定されてしまったら。

私は自分の存在理由さえわからなくなってしまいそう。





でも、相良のやったこと全部が嘘だなんて思えない。

…思いたくない。

だって私がキスしようって言ったとき。

相良は私が傷付くからと言ってしなかった。

それは…少しでも私に対して罪悪感が存在したから。

そう思いたかった。





今は2人の姿どころか声すら耳に入れたいとは思わない。

むしろ避けられるなら避けたいくらい。

でも、個人的な感情で動けるような年齢ではない。

感情も事情も押し殺さなきゃならない。

仕事上でのつきあいでは特にそれが必要になってくる。





「…戻らなきゃ」





洗面所の鏡に写っているのは。

二重が消えた真っ赤な目に、精一杯の作り笑いを浮かべた私だった。




< 245 / 325 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop