嘘と微熱と甘い罠

洗面所から私が戻っても、ミーティングルームに相良の姿はまだなかった。





…ひょっとして。

まだ笠原さんと話をしてる…?





そんなことを考えたら、また胸の奥がツキンと痛くなる。

でも。

この傷みを今すぐ癒せる方法なんて私は知らない。

今、私にできることは。

痛みから目を逸らして、目の前にある仕事をこなしていくことだけ。

私一人の超がつく程の個人的な事情で、仕事に穴なんて開けられないんだから。





そう思いはするものの。

ついさっきの出来事なのに、それを割りきって笑顔で仕事、なんて。

そんなの無理な話でしょ…。

ハハッ…とひとつ、ため息にも似た笑いが漏れたとき。

ガチャという音と共に、ミーティングルームのドアが開かれた。





「…悪い、遅くなった」

「あ…うん、大丈夫…」





ドアを開けたのは、相良。

不機嫌丸出し、トゲトゲした雰囲気を纏った相良がミーティングルームに入ってきた。




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