嘘と微熱と甘い罠
「………………」
「………………」
相良との間の重苦しい空気は、ミーティングルームいっぱいに広がっていく。
耳に入るのはパラパラと紙を捲る微かな音と、ドクンドクンと大きく波を打つ私の心臓の音。
私の中で響いているはずの心臓の音が、相良にまで聞こえてしまいそうな静寂。
何も知らないふりして「遅かったねー、何してたのー?」って、言ってみる?
…いや、さすがにそこまで図太くできてない。
だったら「さっき笠原さんと一緒のとこ見たよ」って、言っちゃう?
…どうせ「案件のことで…」とかなんとか言って、誤魔化されるに決まってる。
じゃあ思いきってさっき見たこと、聞いたことを…聞いてみる…?
…聞けるわけない。
自分で見た、自分で聞いた。
悲しいくらい、嘘だらけだった。
それに私はまんまと騙された。
相良はいつから笠原さんの嘘を知っていたんだろう。
笠原さんの嘘を知っていて、なんで平然としていられたんだろう。
私は、どうすればいいんだろう…。