嘘と微熱と甘い罠
資料なんて捲っているのは形だけ。
今のグチャグチャな私には。
資料という名の紙の上に散らされている文字もグラフも何もかも。
何処か知らない国の知らない言葉に見えてくる。
仕事だけはちゃんとしなきゃって、ここに戻ってきたのに。
ダメじゃん、私。
「はぁ…」
今日、何度目になるかわからないため息を吐いたとき。
相良が口を開いた。
「…泣いた?」
「え…?」
「目ぇ、赤い」
そう言って、相良は自信の指先を伸ばし。
私の目元にそっと触れた。
その指先は少し冷たくて、思わず身を竦める。
「目に、ゴミが入っちゃって…」
「ちゃんと洗ったか?まだ痛ぇ?」
「…もう、大丈…」
私は、言いかけた言葉を飲み込んだ。
嘘。
大丈夫なんかじゃない。
洗えるなら全てを洗い流してしまいたい。
笠原さんとのことも、相良とのことも。
ただの先輩、ただの同僚。
この痛みがなくなるのならもうそれだけでいい。