嘘と微熱と甘い罠
「…まだ、痛…い…」
目尻に浮いてくる涙が溢れる前に。
相良がこの涙に気づく前に、私は嘘を重ねる。
この涙は目が痛いから。
相良がそう思ってくれればいい。
溢れそうな涙を堪えていると。
目元に触れていた相良の指先が、目尻に浮いた涙を掬うように動いた。
「…や…っ!!」
パシンッ。
軽い音をたてて、私は相良の手を払った。
触らないで、優しくしないで。
私、バカだからまた騙される。
もうイヤだ。
これ以上、私の中に入ってこないでよ。
「天沢…?」
「…か…鏡見てくるから…っ!!」
いきなり手を払われて、目を丸くしてる相良を置いて。
私はミーティングルームを飛び出した。
嘘ばっかりなのは笠原さんや相良だけじゃなかった。
私だって“ホント”は何も言えてない。
笠原さんには“物分かりのいい女”を演じてた。
そのくせ相良には愚痴ってばっかりで。
今だって、聞きたいこと…何にも聞けてない…。
「…私も、同じだ…」
アハハ、と虚しい空笑いだけが。
私の中に響いた。