嘘と微熱と甘い罠

逃げて、泣いて、いろんなことがありすぎて。

頭も体も心も疲れてしまってたらしい。

相良から逃げてきた非常階段で、寝てしまっていた。

ケータイで時間を確認すれば、もうとっくに就業時間は過ぎていて。

重い足を引き摺って企画部に戻れば、部内に残っているのは2課の数人だけ。

そこに、相良の姿はなかった。





相良のパソコンは電源が落とされていて、デスクの上には明日の打ち合わせの資料がのっているだけ。

それと同じものが隣の私のデスクにものせられていた。





飛び出して行ったきり返ってこなかったのに。

いつもの相良なら電話やらメールやらで連絡をしてくるはず。

でも今日は、何の連絡もない。





…いいや。

考えたくないし、思い出したくない。

笠原さんのことも、相良のことも。

顔合わせなくて済むならそれでいい。





フルフルと首を振り、自分のパソコンの電源を落とすと。

バッグを掴んで逃げるように部署を出た。




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