嘘と微熱と甘い罠

ここで仕事をしている以上。

笠原さんも相良も避けてばかりはいられない。

笠原さんには騙されて、相良には遊ばれて。

そんな相手を目の前にして、昨日までと変わらない態度でいられるか。

…私そんなに、人間できてない。

真っ正面から顔を見たら、毒のひとつやふたつ吐いてしまうだろう。

ううん、きっと泣いてしまってなにも言えなくなると思う。





でも。

自分でも驚くほど冷めた笠原さんへの気持ち。

相良に対しては「なんでこんなことしたの?」と。

相良の本心が知りたくてたまらない。

避けていたら知ることができるはずのことも。

わからないまま終わってしまう。





「…話、しなきゃ…だよね」





ため息混じりに漏れた独り言は、どこにも触れずに消えていく。

でも、もう少し待って。

自分から触れるには、この傷はまだ新しすぎるから。





…なんて。

そんなことを思っていたのに。





「天沢」





打ち合わせの後。

怖い顔をした相良に私は捕まった。




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