嘘と微熱と甘い罠

同僚、同期、男友達。

そんな相良が私に向かって。

世間一般で言う「口説かれてる?」と勘違いしそうなことを始めた。

今までになかった甘い言動に優しい空気。

それらが私を飲み込んでいくのにはそう時間はかからなかった。

飲み込まれ、溺れ、そして嵌まる。

相良が私の中で占める割合が増えてから。

笠原さんに触れられるのを身体が自然に拒んできた。

今思えば、笠原さんに触れられるのを拒んでいる時点で気持ちはもう相良に向いていたのに。

私はそれから目を背け、認めなかった。

…いや、怖かったんだ。





会議室から飛び出して足を向けたのは、昨日も逃げてきた非常階段。

ここなら誰も来ないはずだ…。

私は走って乱れた呼吸を落ち着かせるようにひとつ、大きく息を吐き出した。





相良は私をなんだと思っているんだろう。

誘われたら寝るような、そんな軽い女だと思っているのかな…。





そんなことを思ったら、今度はため息混じりに言葉が出てきた。





「相良の…ばぁか…」




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