嘘と微熱と甘い罠

階段の下にいる人物は誰なのか。

それは聞き間違えるはずもない…笠原さん、と。

昨日相良と話してたときに笠原さんの口から出た名前の本人…“ユリ”らしい。





なんで?

なんでこのタイミングで笠原さんと本命の彼女の会話なんて聞かなきゃならないのよ。

冗談もここまで来ると笑えない。

でもそれは冗談でも何でもなく。

これが現実だ、と2人の会話がそれを示す。





「…これを機に天沢さんと相良くんとも仲良くなりたいしね」

「…仲良くならなくていいから」

「なんでよーっ!!」





聞きたくないのに否応なしに耳に入る2人の声。

もう、いいから。

他所に行ってくれないかな…。

私は耳に手をあて、階段に座る自分の膝に額をつけた。





「とにかく、あの2人には俺から渡すよ」

「…はぁい、ちゃんと渡してね?」

「…わかったって」





項垂れていた私には、2人の会話が終わったことも気付かず。

まして…コツン、コツンと響く足音が。

ゆっくり近付いてきてるなんて、思ってもみなかったんだ。




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