嘘と微熱と甘い罠
そういえば、笠原さんの下の名前は“修吾”だった、とか。
“ユリ”は同じ会社にいたのか…とか。
相良はユリが誰なのか知っていたのかな、とか。
いつから笠原さんとユリはつきあっていたんだろう、とか。
そんなことばかりが他人事のように頭の中をグルグルとまわる。
私と笠原さんはずっと名字呼びだったけど、本命の彼女とは名前で呼び合うんだな…。
なんて思ったその瞬間。
「…穂香」と呼ぶ、少し掠れた相良の声が頭の真ん中を通り抜けた。
う…わーっ!!
わーわーわーっ!!
何で相良の声が聞こえるのよ!!
聞こえるわけないじゃない!!
もうっ、私どうかしちゃってる!!
ここにいないはずの相良の声が聞こえるなんて。
笠原さんのことが好きだったときだって、こんな幻聴なかったのに…。
恥ずかしさと情けなさとでまたため息を吐き出したとき。
「…あ…」
座り込んでいる階段の下の踊り場に、人の気配を感じた。