嘘と微熱と甘い罠

「…あ…」という独り言にも似た小さな呟きも。

人の来ない非常階段という空間ではよく響く。

その声と気配に顔をあげると。

そこには、今2番目に会いたくない人が階段を上ってこようとしていた。





「…こんなところで、何してるんだ?」

「…お疲れ、さま…です」





少し、ほんの少し口元に歪んだ笑みを含ませた笠原さんが言う。

…笠原さんは、知らない。

私が、昨日の相良との話を聞いていたのを。

だから今、口元を歪ませているのは。

さっき階下でユリと話していたことを聞かれていないかってことだと思う。

でも私からその事に触れたくはない。

私は、笠原さんから顔を逸らすようにまた膝を抱えた。





相良にしても、笠原さんにしても。

あれだけの嘘をついていて、どうして平然としていられるんだろう。

ズキズキと痛い胸の奥。

笠原さんたちには、罪悪感とかないのかな…。





気付かれないくらい小さなため息を吐いた時。

頭の上に何かがのせられた。






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