嘘と微熱と甘い罠
昨日の話も、さっきの彼女との話も。
全部聞いてたって、笠原さんにそう言って。
泣いて喚いて罵って…言いたいだけ言えたら楽になれるのかな。
…ううん。
そんなことしてもなにも変わらないし、元に戻るわけじゃない。
触られたくないのは、笠原さんのせいだけじゃないから。
私が触れられたいのは、私が触れていたいのは。
悔しいけれどアイツだけなんだ。
「もう、無理です…」
「天、沢…?」
頭の上に置かれてる笠原さんの手をそっと退かす。
…無意識じゃなく、初めて。
私は、真っ正面から笠原さんのことを拒んだ。
「…なんで…?」
笠原さんは宙に浮いた手のひらをギュッと握り、悲しそうな顔を見せた。
彼女のこと、私が浮気相手だってこと。
そして、自分の都合のいいように私とのことを終わりにしようとしていること。
私がそれを知っていることを笠原さんは知らない。
だから、形だけでもショックを受けておかないと、計画通りにならないんだ。
…笠原さんの頭の中が。
透けて見えているような気がした。