嘘と微熱と甘い罠
視線が絡む笠原さんの瞳は。
気のせいか、いつもの強気な瞳とは違って。
今はどこか弱々しくみえる。
そんな笠原さんを見て。
私の中で、笠原さんに対して若干の罪悪感が顔を出す。
チクチクと胸を刺す小さな痛み。
…そんな顔をされたら、私が悪者みたいに思えてくる。
ギュッと拳を握る私。
でも。
ここまで来ても自分のことを話そうともしない笠原さんに対して。
ふつふつと沸いてくるこの感情は、決していいものなんかじゃない。
怒り、呆れ、幻滅…。
この人は、私の好きだった笠原さんじゃない。
いや、最初から私の好きだった笠原さんなんて作り物だったんだ。
「…笠原さん」
「なんだ?」
「私…知ってるんです…」
言葉に出してしまえば認めたことになる。
だけど。
これから先、なにもなかったことにして笠原さんと仕事なんてできないから。
私はもう一度握った拳に力を込めて、笠原さんに顔を向けた。
「…笠原さん、彼女がいますよね…?」