嘘と微熱と甘い罠
「…は…?」
その言葉に、大きく目を見開いた笠原さん。
私は笠原さんから目を逸らさずに、そのまま言葉を続けた。
「私、知ってますから…。もう…誤魔化したりしないでください…」
「知ってるって、何を…」
「…昨日、笠原さんと相良が話してたこと」
私と笠原さんがいるここの温度だけが2、3度下がったんじゃないかってくらい。
ちょっとでも動くと、薄く張った氷がパリンと割れてしまうかのように。
冷たく、張りつめた空気がこの場を包む。
でも、その空気も時間にしたらほんの数秒で。
それを破ったのは笠原さんのため息だった。
「…で?」
「え?」
「知ってるから、それがなに?」
笠原さんは。
冷たい目付きに感情も何も感じない声のまま言葉を発した。
さっきは誤魔化そうとして弱々しく見せていたのに。
“知っている”と知ったら。
別人のように態度を変えた。