嘘と微熱と甘い罠
“ごめん”なんて言葉を期待していたわけじゃない。
だけど。
少しくらい申し訳なさを持ってくれている、そう思ってた。
私に対しても、少しくらい“好き”って気持ちがあるんだと。
そう思っていたかった。
「だ…って…」
「で?どこから聞いてた?何を聞いた?」
そんな小さな期待とは裏腹に。
目の前にいる笠原さんはいかにもめんどくさそうに。
私の言葉なんて“そんなのどうでもいい”と言わんばかりの。
ため息混じりに言葉を投げつけた。
そんな言葉に、私は詰まりながらも答えた。
「…他に、彼女が…いて…結婚する、こと…」
「後は?」
「………………」
言いたくなかった。
相良が笠原さんと結託して、私を落とそうとしていた…なんて。
その計画にまんまと嵌まってしまったなんて…思いたくない。
ギュッと右手を握りしめたとき。
笠原さんの唇がほんの少し弧を描いた。