嘘と微熱と甘い罠

笠原さんに腕を引かれ。

急に立ち上がったせいで軽い立ちくらみの感覚。

それもあってか、笠原さんの胸に寄りかかってしまう。





「天沢だって、俺が結婚しなかったらこのままだっただろ?」

「離し…っ!!」

「今まで通り、言わなきゃ誰にもわからない。だから…」

「や…っ!!」

「これからも…俺のものでいろよ」





引き寄せた腕に力を込め、耳元でそう囁く笠原さん。

前の私なら「俺のものでいろよ」なんて言われたら。

ドキドキどころか倒れてしまいそうになったかもしれない。

だけど今は、嫌悪感しか感じない。

それ以上に。

こんな人を好きになってた自分が情けない。

この人の前で泣きたくなかったから我慢してたけど。

もう、無理みたい。





「離し…っ!?」

「天沢はものじゃねぇって、何回言ったらわかるんすか」





笠原さんの側から離れたくて、掴まれた腕を振りほどこうとしたとき。

静かに、だけど明らかに不機嫌な低い声が耳を通った。




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