嘘と微熱と甘い罠

「え…?」

「それ以上、言うな」





言うなって…。

それって、どういう…。

緊張のドキドキが嫌な予感のドキドキに変わる。

背中にツツッと冷たい汗が走った。

やっぱり迷惑だった?

都合よすぎだった?

そういえば、相良の本心は聞いたことがない。

相良が笠原さんに怒っていたのは、相手が私だったからじゃなくて。

やっていることに怒っていただけだった?

だとしたら。

私が相良に抱いているこの気持ちは、相良にとっては迷惑なのかもしれない。

だったら何も言わずにこのまま“ただの同僚”でいたほうが…。





いろんな思いが私の中でグルグルし始めたとき。

「…違ぇよ」

と、呟くようなその声と同時に。

相良が腰を預けていた机から離れ、私に1歩近づいた。

そして真っ直ぐに私と視線を合わせた。





「その続きは、後で聞くから。今聞いたら…良くも悪くも仕事にならねぇ」





たぶん、と付け足した相良の顔は。

やっぱり拗ねているような、てれているような。

頬をほんのり染めていた。




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