嘘と微熱と甘い罠
「あ…、えっ、と…」
相良のその言葉に壁に掛けてある時計に目をやれば。
終業時間はとうに過ぎた時間をさしている。
見渡せば同僚や後輩はもちろん、課長すらもいなくって。
部署内には私と相良しかいなかった。
課長も、声くらいかけてくれたっていいのに…。
とも思ったけど。
結構な勢いでやってたから、私自身が気付かなかっただけなのかもしれない。
現に。
こんな時間になっていたなんて、全然気づかなかったし…。
ここまでつきあってくれた相良に感謝しつつ。
キリもいいし、今日はもう終わりにしようかな…。
そう思ったのとほぼ同時。
「…っ!?」
何かが私の頬に触れた。
ちょっと冷たい、でも温かい。
矛盾しているけどそれがなんなのか。
気付くには、時間はかからなかった。