嘘と微熱と甘い罠

頬をスルスルと、滑る様にそっと撫でていくそれは。

…相良の指先。

優しく…でも、どこか焦らされているような。

そんな感覚を思い出させる。





「…悪いけど俺、とっくに仕事モードじゃねぇの」

「え…」

「お前からのメールからこっち、仕事になんかなってねぇんだよ」





頬を撫でながらそう言って私と視線を合わせた相良は。

パソコンに向かっている相良でも、クライアントと話をしている相良でもない。

仕事、の欠片もない。

何かを言いたそうな瞳の奥から。

欲を含んで熱っぽい視線が絡みついてくる。





「もう、終わり」

「え…?」

「仕事。もう、いいだろ?」





触れていた指先が頬から離れると。

カタン、と小さな音をたてて、相良は立ち上がる。

そして、私の肩に背後から腕をまわしてきた。





「…穂香」

「…ッ!!」





自分のものとは違う体温。

不意に耳元で囁かれた名前。

フワリと漂う相良の香り。

それは。

私が欲しくてたまらないものだった。





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