嘘と微熱と甘い罠
シャンパンとビール
「はい、お疲れさん」
「…はーい、お疲れでーす」
同じ高さに合わせたグラスの中は。
キラキラと光り、シュワシュワと弾け、細やかな泡が浮いては消えていく。
それは、ほんのりと苦味を含んでいるようには見えなくて。
逆に微かな甘味を帯びているんじゃないかって思えるような。
私はそんなグラスの中身に口をつける。
「…ねぇ、相良」
「ん?」
「なんでこれ?」
「好みじゃない?」
…うん、美味しいよ?
美味しいんだけどね。
仕事終わりの呑みはビール。
それは暗黙の了解だったはずなのに。
今、相良と私の手に握られている華奢なグラスの中身は。
柔らかに光を放つシャンパンだった。
…いや、いつもと違うのはそれだけじゃない。
今いるここは、行きつけの居酒屋とかお洒落なレストランとかじゃなくて。
「あ、できた」
奥からチーン、と軽い音が聞こえると相良は立ち上がった。
…そうここは、前にも飲みに来たことがある。
居酒屋・相良、と言う名の相良の部屋だった。