嘘と微熱と甘い罠
俯きたくないのに顔が上げられない。
「時間、できたら連絡するから」
「…はい」
ポンポン、と。
俯いた私の頭に手をのせた笠原さんは。
「お疲れさん」と相良に声をかけて。
また会社の方へと歩いていった。
「…相良」
「なんだよ」
小さくなる笠原さんの後ろ姿を見ながら。
隣に立つ相良の名前を呼んだ。
相良は、その先の言葉がわかるかのように。
ため息混じりに言葉を続けた。
「…もう一軒、行くんだろ?」
ポンッ、とひとつ。
背中に手のひらを感じると。
そのままグイッと背中を押された。
「特別に俺が奢ってやる」
「…偉そう」
「言ってろ。ほら、行くぞ」
背中に触れている手のひらは。
ぶっきらぼうだけど、温かかった。