嘘と微熱と甘い罠

彼は、忙しい。

クライアントや発注先への訪問。

新人教育に商品の販促物の企画。

会議に接待、残業ばかりで定時であがれる日なんて月に片手もあるかないか。

休日だって金曜日が出張なら。

あってないようなもの。





だから。

前もってデートの約束をしていても。

急な残業でキャンセル、なんていつものこと。

そんなのばっかりで。

観に行こうって言ってた映画も。

来月にはDVDになってしまう。





…今日の約束だって。

2週間前からしてたのにな…。

でも、仕方ないよね。

仕事なんだから。





キュッ、と痛くなる胸の奥をため息で誤魔化しながら。

私は彼からのメールに返信をした。





【気にしないで。仕事、頑張ってね】





送信しました、と画面に浮かび上がる文字を見ていると。

なんだか虚しくなった。



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