嘘と微熱と甘い罠
“いつものところ”
それは会社から少し離れた裏通りにあるバーであり。
私と笠原さんの待ち合わせの場所。
通りの奥にあるから、と。
会社の人はまず知らないであろう場所。
つきあい始めてから、待ち合わせはいつもそこだ。
「いつもいきなりでごめんな」
「いえ、大丈夫です」
嘘。
ホントは大丈夫じゃない。
どうしても時間に間に合わせたくって、仕事持って帰ってきちゃったし。
新人の頃。
笠原さんに「公私混同はダメだ。社会人としての基本」としつこいくらいに言われたのに。
笠原さんからの呼び出しがあれば。
大事な会議の前でも、新商品のプレゼンの前でも。
今の私なら笠原さんと秤にかけてしまう気がする。