嘘と微熱と甘い罠
それでも私は。
この空気を、距離を。
いつもの相良と私に戻したくて軽口をたたく。
「き、今日行ったアウトレット!!笠原さんには遠いからって渋られちゃったんだよねー」
ビールを片手に笠原さんの話。
“私には笠原さんがいる”
そう言い聞かせるためにあえて言葉に出した。
…はずだったのに。
それは逆効果でしかなく。
「…笠原さん、ね…」
「え…ちょっ…さが…わッ!?」
「…そんなに、好きかよ…」
低く呟いた相良の声の終わりと同時。
相良の向こう側に見えていたものと。
何もなかったはずの背中への感覚が変わった。
目の前には相良の顔。
相良の顔の向こうには天井。
背中にはさっきまで座っていたはずのラグマット。
相良に組み敷かれていることに気付くには。
時間はかからなかった。