妹の彼氏
プロローグ
鏡に映る自分の顔が、あまりにも見覚えのある姿をしていて憂鬱になった。
それは、毎朝学校に行く前に見つめるものとは違う。
17年間、自分の人生において誰よりも見つめ続けたもの。
「帰っちゃおうかな」
思ってもいないことを口にした。
そのことをすぐに後悔して、普段なら決して選ぶことのないチェリーピンクのリップを塗ったくちびるを噛み締める。
鏡を鞄に仕舞いこみ、ため息を落とす。
緊張から、淡いピンクのニットをぎゅっと握った。
その下から覗く、私らしくないロングスカートがひらひらと揺れている。
期待や喜びといった前向きなものだったらよかったんだけど、残念ながら違う理由で心臓がどくどくと動いている。
いつもよりほんの少し早いペースはまるで生き急いでいるみたいだ。
ピンクよりブルーの服を割り当てられることの方が多いし、スカートよりパンツの方が気が楽。
化粧なんて面倒なこと、今までほとんどしてこなかった。
自分らしくないことをするのは、目的が目的だけに気が重い。
「杏里ちゃん」
名前を呼ばれ、パッと顔を上げた。
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