妹の彼氏
笑みを向けられて、胸がひりひりと痛んだ。
一層のこと、私なんて機械でできていたらよかったのに。
軋んで、そのまま壊れてしまうことができたら、もう苦しいことなんてなにもなかったのに。
でも、選んだのは私だ。
「待った?」
「ううん、私は今来たところだよ」
首をふるふると横に振れば、よかったと頬を緩める。
どこか気恥ずかしげな仕草が愛しくて悲しい。
誰よりも優しい人。
いつも気遣ってくれる人。
たくさん、たくさん大切にしてくれる人。
目の前の彼のことを思って、泣いてしまいそうになる。
でもわかってる。
私にそんな資格はないって。
ごめんなさい。
……私は杏里じゃないの。
本当の名前は千枝里で、あなたの彼女じゃない。
あなたの愛する人じゃない。
私はあなたの特別な人ではないのに、それなのに。
私はいつも、双子の妹のふりをして、妹の彼氏と会っている。