懐かしい味
女の子は謝りながら五百円玉を見つけようと、廊下や椅子の下などを見る。
 しかし、数分探しても見つからないで困っていると、偶然通りかかった医者が善希に話しかけた。

「そんなに身を低くして、何をしているの?」
「お金をなくしたんだ・・・・・・」 
「私が悪いの!ぶつかっちゃって・・・・・・本当にごめんなさい」

 ペコリと頭を下げた女の子を見て、医者は僅かに首を傾げて女の子に近づく。動かないように言ってから手を伸ばすと、五百円玉を拾い、善希に渡した。

「あったよ。これだよね?」
「そう!どこにあったんだ!?」
「ここにあったよ」

 医者は善希が見えるように移動して、女の子の服のフードをヒラヒラと指先で揺らした。
 善希はどかっと椅子に座り込み、女の子は心配そうに見つめる。

「見つかって良かったね。じゃあね」

 改めて医者にお礼を言うと、にこっと笑ってから去った。

「もう見つかったから行っていいぜ」
「何を買うの?」
「腹が減ってんだ。適当に買うよ」
「それなら!」

 女の子は鞄の中から何かを取り出そうとしていて、ふんわりと甘い香りが漂ってきた。

「ぶつかったお詫びにあげる!」
「ケーキ?」
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