君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】


アイツに言われるままに、ピアノを片付けて楽譜をアイツの膝の上に置く。

そしてノートパソコンとマイクを片付けると、
全ての荷物を持って、遊戯室を出た。


病室に戻ると、そこには昼ご飯がすでに運ばれてきてた。



いつもの様に食器を移し替えて、
昼ご飯を食べると、俺はアイツが使った食器も奪って
給湯室で洗うと、病室に戻った。




病室に戻ると、アイツは楽譜に視線を通しながら
ペンを握って、おたまじゃくしを作り始める。




そんな作業に没頭した後、少し休んで
今度は、久しぶりのミニリサイタルの準備に向かう。



かおりさんが迎えに来て、車椅子で移動するアイツの隣、
俺もゆっくりとついて歩く。


車椅子からピアノの椅子に移動するのを手伝うと、
アイツのピアノを待ってたらしい人たちの輪が広がっていく。

椅子に座って会計を待ってる人たちも、一斉にピアノの方に顔を向ける。



アイツは、そんな皆にお辞儀をすると
鍵盤に静かに指を乗せて、奏で始める。




TVのCMとかで聴いたサウンドが、
俺の聴覚に届く。



沢山の人の拍手が包み込む中、
アイツは近くに居る人に、リクエストを聞いているみたいだった。




「一つリクエストしてもいい?」



人が集まった先をすり抜けて、
アイツの傍にいって声をかけたのは美加。



何かやらかしそうな雰囲気に、
俺は不安を感じながら、理佳の傍に近づく。



「ねぇ、演奏してよ。
 
 貴方が七年前に、メイク・ア・ウィッシュに叶えて貰ったときに
 羽村冴香と演奏した曲。

 なんだったかしら?

 18まで生きられないって、TVに出演してた割には長生きしてるよね。
 今、何歳になったの?

 心臓の病気だからって、ちやほやされて、願い事叶えて貰って幸せでしょ?
 ほらっ、あの時演奏した曲聴かせてよ」




食って掛かるでもなく、淡々と理佳に言い放つ美加の言葉。

美加の言葉が刃になって突き刺さってるのは、明白で
アイツは無言で俯いてしまう。


何があったのか、
何のことなんだという風に周囲の人たちはひそひそと会話を始める。



固まったように動かなくなったアイツは、
両手で自分の体を抱きしめるようにして、何かの苦痛に耐えているみたいだった。



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