君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
メイク・ア・ウィッシュ。
この団体に出逢って、私は当時の私の夢を叶えて貰った。
それと同時に、私が交流を持ったのは
有名ピアニスト。
TVの取材が訪れて、
二時間と言う枠の特集番組内の一時間の枠で組まれてしまった。
一緒に夢を叶えた、他の子たちよりも一番長い時間枠。
電車の運転手になりたい、飛行機に乗りたい。
そんな夢に混ざって、私は冴香先生に逢ってピアノの先生になって欲しいって
今思えば、びっくりするように夢をお願いしてた。
当然、人々の注目も受けやすいし、今思えばTV番組なんだから
視聴率を取るためなら、どんな演出もいとわないと思うけど
そんな大人事情を全く知る由もなかった、私の幼い時間。
夢が叶ったと同時についてきた、
私にとっての予定外の副産物。
世間は広いようで、狭くてTVでモザイクなしで出たことから、
私はここの病院に入院していることは、ネット上に瞬く間に拡散された。
この病院宛に、TVを見てくれた人から励ましの手紙も届いたけど、
『病気だからって特別視されてズルい』なんて抗議の手紙もあった。
それでも……そんな世間の目を気にせずに、
歩き続けられたのは、18歳まで生きられないって当時告知されていたから。
私にとっての当然の権利って言ったらおかしいけど、
沢山諦めてきたんだから、これくらいいいじゃないって言う
そんな気持ちの方が強かったから。
だけど……18歳の誕生日を今年4月に迎えて、
4ヶ月がもうすぐすぎようとしてる。
宣告されたタイムリミットを越えた私は、
過去の自分のことを知る人が来る度に怖くなった。
今も生きていられるのは、
冴香先生に出逢って、生きる力を貰ってるから。
それは紛れもないと思うんだけど、
だけど……18まで生きられないからと、当時の同情をひいた私が
今も生きてることに対しての罪悪感も、今は芽生えてしまったから。
18歳まで生きられることがわかってるなら、
あの時……、当時の主治医に告知されなければ、
メイク・ア・ウィッシュの存在すら、知ることもなかっただろうから。
とりあえず今は、少しでも早くここから立ち去りたい。
そんな思いで私は、もう一度にピアノの鍵盤に指を添えた。
そのまま深呼吸を何度か繰り返して、
少年からリクエストのあった、幻想即興曲を演奏した。
久しぶりなのと、少し動揺が尾を引いて
完璧な演奏とはならなかったのが少し悔しい。
演奏を終えると、お辞儀をして私のスピードでは速い行動で
車椅子に移動すると、逃げるようにその場から動き出した。
車輪を回す手に力が入る。
一気に体に負担がかかっているのがわかりながら、
その手を止めることは出来なかった。