君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】



「理佳さん、待って」




そんな声が聞こえて、車椅子の持ち手を掴まれた感覚があり
さっきの少年が、車椅子の主導権を持ち始めた。



「放して」


私的に強く言い放つも、その力は緩められることがない。



「理佳さん、病室まで俺が連れてくから。

 俺、宮向井隆雪。
 理佳さんと同室の、託実の親友。

 託実、今あの子の方に行ってるから俺がかわり。

 彼女、託実に片想い中の陸上部のマネージャーなんだ。
 託実が陸上部に居るから、陸上部まで追いかけていった生粋の託実ファン。

 彼女の言葉は許されるものじゃないけど、
 多分……理佳さんに託実を取られるのが怖かったんだと思う

 傍で見てて、俺思うから。

 アイツ、多分理佳さんに本気だよ。

 素直じゃないから、凄くわかりにくいかも知んないけど
 俺が一つだけ言えるのは、アイツは……託実はいい奴だよ。

 人の心をちゃんと考えようとする、優しい奴だから」


優しく声をかけてくれた私の過去を知る少年は、
託実くんの親友だと名乗った。


そして思いがけない言葉を紡がれた……。


託実くんが、私に本気?



「託実効果かな。
 ここのところ理佳さんも、少し力緩めてくれて俺は嬉しいよ。

 何度か病院に足を運んで、理佳さんの演奏を聴いてたけど
 やっぱり……何処か、頑なだった。

 でも今は……少しずつ柔らかくなってる。
 俺は理佳さんに今、生きてて貰えて嬉しい。

 それに多分、託実も嬉しいんじゃないかな。

 18迄生きられないって言われてた理佳さんが、
 本当にそこで終わってたら、俺は理佳さんとこうやって話せる日は来なかったし
 託実も出逢えなかった。

 
 そしたら……初恋に悩む、託実を見ることなんてなかったからね。

 アイツが必死に選んだ携帯電話のケース、気に入った?」



託実くんが選んだ……携帯電話のケース?


携帯電話のケースと言われて思い出すのは、
あの紙袋に入っていたもの。


電話の本体に、携帯ケース、
そしてストラップが入ってたのを思い出す。





「入院中の託実くんがどうして選べるの?」



思わず気になってたことを問いかける。



「携帯と俺。

 俺に頼んでまで、
 アイツは理佳さんにプレゼントが渡したかったってことかな。

 ちなみに俺が知る限り、託実がここまで執着してプレゼントを用意しようとしたのも
 理佳さんが初めてかな。

 託実は照れ隠しに否定するかも知んないけど、
 傍で見てたら、何かも理佳さんはアイツにとっての特別なんだよ。

 ひと夏の間にさ」




私が託実くんの特別?
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