君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】




宮向井君の言葉に、無意識に……託実くんがくれたらしい
携帯ケースへと手を伸ばして、そっと触れる。



それって……託実くんが
私のこと好きって教えてくれてるの?



己惚【うぬぼ】れてることにならないのかな?
勘違いにならないのかな?




「後、紙袋の中にストラップ入ってなかった?
 あれは俺からね。

 メイク・ア・ウィッシュの時にさ、海が好きって言ってて
 ピアニストの羽村さんが、代わりに海に行って貝殻拾って来てたよね。

 それを思い出したから、貝殻見つけたんだ。
 天然石もデザインも託実とお揃い。

 ただ貝殻の上のパーツは、託実のパーツと合わせたら一つになるから。

 俺からの恋愛成就の願掛けもかけたプレゼント。

 託実、何も言わなかった?」



問われる言葉に、ただ私は首をふるふると横に振った。



「まぁ、託実らしいけどね」

 


親友が教えてくれる、託実くんの素顔は
私に見せてくれてる、こ憎たらしい貌とは違ってた。


それと同時に……また少し彼に、
惹かれていく私を感じてた。


他愛のない会話しかなかった病室までの道程、
ベッドまで送り届けた宮向井君は、そのまま私の傍に居座った。




「そう、さっきも話したけど、俺……弟居るんだよ。
 今小学生。

 雪貴【ゆきたか】って名前なんだけど、弟はピアノやってるんだ。
 何時か、機会があったら生で理佳ちゃんのピアノ聴かせてやってよ」



まただ……。
どうして宮向井君は、私のピアノに拘るんだろう。

僅かに浮上した素朴な疑問。





「どうして、そんなに私のピアノを気にかけるの?」

「どうしてって言われても難しいんだけど、
 俺は君の奏でる、ピアノの音と、その技術力の高さに感心してる。

 俺はピアノじゃなくてギターを練習してるんだけどね」



そう言うと、宮向井君は携帯から自分の相棒らしいギターを見せてくれた。


銀細工が施された、アンティークのギター。




「んで、俺が演奏してるところが、これ」



そう言って再生する動画。

何かのLIVEステージの演奏なのか、
パフォーマンスをしつつ、演奏する宮向井君の姿がその中には映ってた。




「俺、将来バンドを結成して上りつめたいんだ。

 それでさ、もし叶うなら理佳さんにも手伝って貰えないかな?

 バンドはやりたいけど、タブ譜の専門で、楽譜を読むのは苦手なんだ。
 後は幅広いアレンジ力が欲しい。

 機会があれば頼んでみたいって思ってたけど、
 俺的にもなかなかチャンスがなくて、ずっと言えないままだった。

 それが託実が入院して、ちょっと俺にもチャンスが巡ってきた」





バンドを結成したいと告げた少年の夢。



そんな夢が、メイク・ア・ウィッシュに出た頃の
私自身の純粋な時間とLINKしていく。


ほんの少し、心が揺れた。
< 107 / 247 >

この作品をシェア

pagetop