君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】
16.退院の決まった日 -託実-
「理佳、自己紹介。
コイツは、俺の学校の陸上部のマネージャーしてた
堂崎美加。
美加、こっちが俺が好きな理佳さん」
勢いで言っちまった告白。
口を滑らした瞬間、アイツをチラリ見たけど
アイツは、きょとんと戸惑ったふうに俯いた。
冷静を装って、平常心を意識して
何事もないように『理佳、美加に挨拶してやってよ』って
言葉を投げかけてるだけで、平常心じゃねぇー。
普段の俺は、アイツのことを理佳って声に出して呼んでるわけじゃねぇのに
こんなときばっか、恰好つけたい俺がニョキニョキっと顔を出す。
エントランスでのミニリサイタルの時、
アイツを傷つけた美加が、俺は許せなかった。
アイツは本当のこと隠したがるから、
何も辛いことがなくて、好きなことしかやってないように妬むやつもいるかも知れない。
だけど……、俺だってこんなに深く関わる時間がなかったら、
アイツのことを誤解してたかも知れない。
最初は、ムカつく存在だったアイツが
俺の中で、ゆっくりと気になる存在、好きな女の子へと
変化していく瞬間、少しずつアイツと言う存在が変わっていった。
付き合って、アイツを知ろうとしない限りは
アイツは、他の人間には受け入れられない。
自分から歩み寄ろうとしないアイツの心を溶かすのは、
俺たちからのアプローチしかないってこと。
経験値が少ないアイツにとっては、
それですら、多分必死な人間関係の構築なんだろうって思う。
とりあえず、そんな必死の思いでこれから美加とコミュニケーションをとるであろう
アイツを見守りながら、半ば追い詰めるように話題を振る。
アイツは顔をちょっぴり赤らめながら俯いてる。
俺と視線をあわそうとしない辺りが、
俺に今までむ告白してきた、どの女よりも違って見えた。
「託実、祝両想い」
隆雪の言葉に、思わず親友の顔を見る。
両想いってことは、
理佳も俺が好きってこと?
片想いじゃないって……この赤面の意味は、
俺を意識してからって解釈でいいのか?
いきなり過ぎなんだよ、お前も。
そんな風に、理佳のことを毒づきながら
俺は後ろに立つ、美加の方に視線を向けた。