君に奏でる夜想曲【Ansyalシリーズ『星空と君の手』外伝】



退院が決まった嬉しさ。



理佳と同じ空間に居る、この生活が終わってしまう寂しさ。
何ともいえない、ざわついた感情が目覚める。




病室に戻った時、理佳の姿はそこにはなかった。


ピアノを演奏してるかと思って、
お遊戯室の方にも行ってみるものの、
ドアに鍵がかかったまま。



理佳を探すように、病棟を歩いていると
「託実くん、退院決まったのね」っと、
左近さんが声をかけてきた。



「今、主治医に聞いてきました。
 あのさ、理佳は?

 なんかあったの?」

「理佳ちゃんは今検査中よ。

 お昼前には戻ってくると思うから、
 託実くんも、大人しくしてなさい」



そう言いながら左近さんは、慌ただしく
仕事へと戻っていった。



病室のベッドに寝転んで、隆雪に退院が決まったとメールした後
携帯電話で突発性拡張型心筋症。



昨日、動画で見た病名を打ち込んで検索してみる。




難病情報センターと言うサイトが一番最初に引っかかって、
その文字をクリックすると、ページが開かれる。


うっ血型心筋症と記されたその下に、病気の説明が続いた。





本症は心室の筋肉の収縮が極めて悪くなり、
心臓が拡張してしまう病気で肥大型心筋症に較べて予後の悪いものです。
我が国のかつて統計によると、診断されてから5年生存している人は54%、10年生存は36%とされていましたが、
最近では治療の進歩により生存率は76%と良くなっています。

死因としては、心不全と不整脈があります。

また、不整脈や心不全の重い人では、心臓の腔内に血の塊(血栓)ができて、
それがはがれて血流に乗って流れると脳の血管などにつまって脳梗塞を生じたりします。






調べて……血をひく思いだった。



何も語らない理佳が抱えてた恐怖を
ほんの少し感じることが出来たみたいで。



理佳は昼前に車椅子でベッドに戻ってきたけど、
検査で疲れたのか、そのまま夕方まで眠り続けた。



晩御飯時になっても、
「退院することになったこと」を切りだすことが出来なかった。




伝えることが出来ないまま時間だけが過ぎていく。




すると、隆雪からメールが届く。

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